研究内容

複雑な脳機能の分子レベルでの理解を目指して

脳は驚異的な複雑さを持ち、神経細胞とグリア細胞が形成する巨大なネットワークによって、思考、感情、意識といった多彩な脳機能を生み出しています。この複雑なシステムを理解するための鍵は、タンパク質などの分子が果たす多様な役割にあります。私たちは、「分脳一体」(脳機能の本質は分子にある)をテーマに掲げ、分子の多機能性を深く探ることで脳の仕組みを解明しようとしています。これらの研究を通じて、神経・精神疾患の原因究明や、次世代の分子標的診断・治療法の開発を目指し、社会貢献に取り組んでいます。

①BioIDを応用した空間プロテオーム技術の開発

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私たちの体内には、選択的スプライシングや翻訳後修飾を経て、約10万種類にも及ぶ驚異的な多様性を持つタンパク質が存在します。これらのタンパク質は、神経回路内で正確に機能することで、脳の非常に高度な働きを支えています。私たちの研究室では、近位依存性ビオチン標識法(BioID)を用いた空間プロテオーム技術を開発し、細胞内の特定領域に存在するタンパク質の機能を網羅的に解析しています。この技術は、従来困難だった脳組織内の神経細胞やグリア細胞に局在するタンパク質を効率よく検出し、脳機能を作り出す分子メカニズムの包括的な理解に貢献しています。

シナプスの多様性を生み出す分子メカニズムの解明

脳内には150兆個以上のシナプスが存在し、それぞれが独自の役割と特性を持ちます。この「シナプスの個性」が、記憶や情動、意思決定、社交性など多様な脳機能を実現しています。さらに、神経細胞はグリア細胞の一種であるアストロサイトと協力し「三者間シナプス」を形成することで、複雑な情報伝達を精密に制御しています。私たちの研究室では、このシナプスの個性を生み出す分子メカニズムの網羅的な解明を目指し、シナプスごとに異なる分子イベント(細胞外から細胞内への一連の分子メカニズム)を詳細に解析しています。具体的には空間プロテオーム解析、遺伝学的解析、生化学的解析、組織学的イメージング解析、行動解析など多角的な手法を駆使して脳の驚異的な柔軟性と精密な機能を支える分子メカニズムの解明を目指しています。

③精神・神経疾患の病態メカニズムの解明

精神疾患や神経疾患の多くは、脳内の神経回路やシナプスの異常によって発症します。私たちの研究室では、これらの疾患の根本的な原因を解明するため、特定のシナプスや神経回路における分子レベルの異常を詳細に調べています。特に、うつ病、不安症、統合失調症、アルツハイマー病において、神経回路の機能障害がどのように病態を引き起こすのかを、高精度の空間プロテオーム技術を用いて詳細に解析しています。このアプローチにより、神経回路の分子異常が脳の機能不全にどのように繋がるのかを明らかにし、疾患の早期診断や画期的な分子標的治療法の開発に向けた分子基盤を築くことを目指しています。